今日の1枚(219)

前回そのプロフィールをやや詳しく取り上げたセルゲイ・クーセヴィツキーの録音、2枚目は、

①シベリウス/交響曲第7番
②ロイ・ハリス/交響曲第3番
③ベートーヴェン/交響曲第5番

②は手兵ボストン交響楽団との録音ですが、①はBBC交響楽団、③はロンドン・フィルハーモニー管弦楽団との演奏。①も③もボストン交響楽団との録音も残されていますが、ここでは敢えてイギリスでの録音が選ばれたようです。
例によってNMLでは録音日付などは判りませんので、他の資料から探してみました。

クーセヴィツキーはスクリャービンの紹介者として著名でしたが、シベリウスを積極的に取り上げた指揮者としての顔もありました。当時ほとんど評価されていなかったシベリウスを積極的に紹介したことが、英国でのシベリウス評価を大いに高めたことは間違いありません。
①は某資料によると1933年5月1日に行われたライヴの録音とのこと。確かに聴いてみると少ないながらも会場ノイズが聴こえ、拍手もギリギリでカットしたような節もあります。

前回のビーチャムで協会盤について紹介しましたが、SP期のシベリウス作品の録音は「シベリウス協会」のものが中心でした。WERMでは第6集までが記載されていますが、第2集にはクーセヴィツキー指揮の第7交響曲とカヤヌス指揮(ロンドン交響楽団)の第3交響曲が収められていました。これは1933年5月15日にロンドンのクィーンズ・ホールでの録音で、同作品の世界初録音と記録されています。
NML配信はその2週間前のライヴですから、こちらが正真正銘の世界初録音となるでしょう。協会盤での初では、英コロンビアの DB 1980/6 のSP7枚組14面の内6面が第7番に充てられていました。因みに当協会盤、交響曲では第3番から第7番が対象。1番と2番は一般発売でも人気曲だったようで、協会盤には含まれていません。

シベリウスの第7交響曲は単一楽章のシンフォニーですが、②アメリカの作曲家ハリスの第3シンフォニーも単一楽章作品です。クーセヴィツキーの委嘱作品ではありませんが、初演は1939年2月にクーセヴィツキー指揮のボストン交響楽団によって行われました。この時にクーセヴィツキーは「アメリカで作曲された交響曲の最高傑作」と激賞しています。
当録音は初演の9か月後、1939年11月8日の録音とされるもので、間違いなく世界初録音でしょう。音盤としての初出は英コロンビア、DB 6137/8 のSP2枚4面。4面に収めるためでしょうか、練習番号27の4小節目から同31まで、37小節を音楽の流れを妨げないように巧みにカットしています。新しい、例えばオルソップ盤などを聴いてもカットはありませんから、クーセヴィツキーが熟考した上で鋏を入れたものと思われます。

③は1934年9月3日と4日に録音された旧録音。もちろんSP盤で、英コロンビア DB 2238/42 5枚10面での発売。ボストン交響楽団との新録音もSP盤でしたが、こちらはヴィクターからSP4枚8面で出ていました。
1930年代の録音にしては音質も良く、クーセヴィツキーもチャイコフスキー程には芝居気を施していません。第1楽章の繰り返しは実行、同再現部でのファゴット信号にはホルンを重ねています。一方第4楽章の繰り返しはせず、練習記号Dでの木管のフレーズにはホルンを重ねていますが、これは当時の常識的な加筆で、クーセヴィツキーは他の名指揮者に比べれば原点に忠実と言えましょう。
第3楽章の「C」、フィナーレへの経過句でグッとテンポを落とし、テンポを上げながら第4楽章に突入する演出は如何にもクーセヴィツキーらしい所。

参照楽譜
①ウィルヘルム・ハンセン Nr.2426 b
②シャーマー No.22
③フィルハーモニア No.1

 

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